繁岡ケンイチ 川奈ホテルの夏 繁岡ケンイチ(繁岡鑒一)
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ホテルレビュー1953年6月号より
川奈ホテル夏イラスト
 夏へのピッチは急速だ。

 老鶯の鳴き声は季節はずれを思わせ野バラが芳香を漂わす様になると、ホトトギスが小室の中天を鋭くなきわたる、日盛りには大島南方の空を一面に入道雲が層をなして川奈もすっかり夏になる。

 こうなると、ホテルの客は自然と中庭のプールを中心に集まる様になって、ピーチパラソルは大きな花が開いた様にあちらこちらに立てられ強い色の縞模様が外人客のサマースタイルと好調和をなし且紺碧の空に一際光る赤瓦のホテル殿堂が好対照をつとめる。

 夏の景物詩の一つは虹とゴルファーだろう。 スコールがやってきたらコースへ出る事だ、運よく富士の11番あたりでスコールに出会ったとしたらそれは素晴らしい。

 あのロングホールの突端、川奈岬からなほ沖合い遠く雨の層があれば虹の厚さがそれだけ深くなる理で、ゴルファーは虹の架け橋を潜りぬけ潜りぬけグリーンに向かって白球を打っていくのだから、この虹の厚さの美しさを見ながらのこの情景は全く夢の実現と云いたい。

 私は去年この場所で見たのだが、白日夢と云う言葉がぴったりこの感じを表現して居る様に思われる。
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